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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)832号 判決 1990年9月03日

甲・乙事件原告 東邦薬品株式会社

右代表者代表取締役 松谷義範

右訴訟代理人弁護士 谷口圭佑

甲事件被告 株式会社 チェリー

右代表者代表取締役 甲野太郎

甲事件被告 甲野太郎

乙事件被告 乙山春夫

右三名訴訟代理人弁護士 仲田晋

同 笹岡峰夫

主文

一  甲事件被告ら及び乙事件被告は、甲・乙事件原告に対し、各自金六六七万五六九一円及びこれに対し、甲事件被告株式会社チェリーは昭和六一年七月一日から支払済みまで年六分の割合による、甲事件被告甲野太郎は同年六月二九日から、乙事件被告は昭和六二年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告の甲事件被告甲野太郎に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、甲事件被告ら及び乙事件被告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(甲事件)

1 甲事件被告らは、各自甲事件原告に対し、六六七万五六九一円及びこれに対する甲事件被告株式会社チェリーは昭和六一年七月一日から、甲事件被告甲野太郎は昭和六一年六月二九日から各支払済みまで年六分の割合による各金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は甲事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

(乙事件)

1 乙事件被告は、乙事件原告に対し、六六七万五六九一円及びこれに対する昭和六二年一月三一日から支払済みまで年五分の割合による各金員の支払をせよ。

2 訴訟費用は乙事件被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する甲・乙事件被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は甲・乙事件原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因(甲・乙事件)

1  甲・乙事件原告(以下、「原告」という。)は医薬品総合卸を業とする会社である。甲事件被告株式会社チェリー(以下、「被告会社」という。)は、横浜市内において診療所「チェリークリニック」(以下、「診療所」という。)を経営する会社であり、甲事件被告甲野太郎(以下、「被告甲野」という。)は被告会社の代表取締役であり、乙事件被告乙山春夫(以下、「被告乙山」という。)は被告会社を全額出資して設立し、同社の実質的な経営者として経理・営業その他運営に関するすべての実権を握って、対内的にも対外的にも実質的に同社の代表者として行動し、第三者からも同社の代表者と考えられていたものである。

2  原告は、被告会社に対して、診療所用の医薬品を、昭和五八年四月から同五九年八月一五日までの間、代金の支払は毎月一五日締切、当月末一八〇日サイトの被告会社振出名義の約束手形払の約定で継続的に売り渡し、同年八月末日現在の売掛金残は六六七万五六九一円である。

3  被告甲野と同乙山は、共謀の上、診療所の経費の削減を図るため、丙川一郎がエックス線照射等の資格を有していないことを知りながら、昭和五八年六月から同五九年三月までの長期間にわたりエックス線照射等の不正診療に従事させた。右不正の発覚により、関係者は行政処分及び刑事処分を受け、その結果被告会社は診療所を廃業し、倒産するに至り、原告の被告会社に対する売掛金の回収は困難になり、原告は代金相当額の損害を被った。

被告甲野は被告会社の代表取締役として日常、診療所の病院事務を全般的に処理していたし、被告乙山は被告会社の実質的な経営者として重要事項は全て自ら決済し、対外的にも対内的にも実質的に同社の代表者として行動し、第三者からも同社の代表者と考えられていたのであるから、右被告両名は、被告会社が適正な診療を行い、営業を継続し、債権者の債権を倒産等により回収不能にすることのないようにするべき義務があり、また不正診療を継続すれば早晩監督官庁の摘発を受け、そうなれば従前より医療法違反(宣伝広告の制限違反、無届診療科目による診療実施など)で再三県衛生部または保健所から警告を受けていたこともあったから、行政処分により廃業か保険医指定取消し等の重い処分を受け、診療所の継続は出来なくなり被告会社の経営も困難になって、医薬品を納入していた原告に対して支払が出来なくなることを十分認識していたか、認識し得たにもかかわらず敢えて不正診療及び医薬品の購入を続け、不正を摘発されるまで止めなかったのであって、被告甲野及び被告乙山の右行為は計画的であり、故意に前記義務に違反したかまたは重過失によりこれを怠ったのであり、被告甲野は商法二六六条ノ三第一項の損害賠償責任を負い、被告乙山は商法二六六条の三第一項の類推適用または民法七〇九条により損害賠償責任を負うものである。

4  よって、原告は、被告らに対し、被告会社は売買契約に基づき、被告甲野は取締役責任に基づき、被告乙山は取締役責任の類推または不法行為責任に基づき、六六七万五六九一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社は昭和六一年七月一日、被告甲野は昭和六一年六月二九日、被告乙山は昭和六二年一月三一日)から支払済みまで被告会社及び被告甲野については商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、被告乙山については商事法定利率年六分のうち年五分または民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、被告会社が診療所を経営する会社であること、被告乙山が被告会社を全額出資して設立し、同社の実質的な経営者として経理・営業その他運営に関するすべての実権を握って、対外的にも対内的にも実質的に同社の代表者として行動していて、第三者からも同社の代表者と考えられていたことは否認し、その余の事実は認める。診療所は、被告会社とは別人格を有し、診療所からその病院事務の委託を受けてその事務を行っていたものである。

2  請求原因2の事実は、原告が被告会社に対して医薬品を売り渡したことを否認し、その余は認める。原告から医薬品を購入していたのは診療所こと丁原である。

3  請求原因3の事実は、診療放射線技師法及び診療エックス線技師法違反により関係者が刑事処分を受けたこと、診療所が廃業に至ったこと、被告甲野が被告会社の代表取締役であったことは認め、その余の事実は否認する。診療所が廃業に至ったのは開設者であった丁原夏夫がその意思に基づき廃業届を出したことによるものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実のうち、原告が医薬品総合卸を業とする会社であること、被告甲野が被告会社の代表取締役であることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、《証拠省略》によれば次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

被告乙山は、不動産業等を目的とする会社等を経営していたが、自己の事業を拡大するため、酒類、タバコ、食料品の販売等を目的とする被告会社を設立することになった。被告乙山は設立にあたり、その費用については全額自己の資金から支出し、設立のために必要な発起人については知人や自己が経営していた会社の従業員の名義を借用し、また株主についても同様に名義を借用し、株式の払込金も自己が捻出して昭和五六年九月八日被告会社を設立した。被告会社の代表取締役には、自己の部下で業績のあった被告甲野をあて、他の取締役にはやはり自己の経営する会社の従業員をあて、自己は取締役にはならなかった。被告乙山は代表取締役の被告甲野に日常的な業務についての意思決定と執行についてはまかせていたが、重要な事項については全て被告乙山が掌握しており、被告甲野も主要な点は被告乙山に相談し、その指示を仰いだうえで行っており対外的にも被告乙山が代表者のように振る舞うことが多かった。被告会社は当初外国から食料品を輸入し販売を行ったこともあったが、昭和五七年ころ被告乙山はその経営する不動産業等を目的とする会社が手がけていた保土ヶ谷地区の再開発事業に資することもあって、住民から要望のある内科、小児科、眼科、整形外科、歯科、皮膚科の六科を有する診療所を被告会社に経営させることにし、被告会社の目的として病院、診療所の経営を加え、被告甲野に指示してその開設にあたらせ、また自らもその開設のため県の衛生部に赴いたり、医療器具の購入や医薬品の納入について種々奔走した。診療所の開設については、本来は被告会社でしたかったが、被告会社名義では開設できなかったことから医師の名義を借用して開設することにし、一旦昭和五七年五月ころ知人の医師に頼んで開設者になってもらったが、三ヶ月ほどで右医師がやめてしまったため、同年九月ころ雇用していた医師の丁原の名義を借りて診療所を開設した。診療所の運営については、理事長と呼ばれていた被告乙山と、所長と呼ばれていた被告甲野が主に携わっていたほか、被告会社の取締役であった戊田、甲山、乙川らも全て診療所の仕事に従事していたし、被告乙山が経営する不動産業等を目的とする会社から丁山という者が人事の担当者として派遣されて従事しており、また診療所に勤務していた医師、看護婦、その他の従業員はいずれも被告会社に雇用されていた。そして診療所の経営に必要な資金の調達はもっぱら被告乙山が行っており、診療所に必要な器材の購入、リース契約による導入、医薬品の仕入れ、従業員の採用は被告乙山、同甲野、前記丁山らが相談して行い、重要な事項については実権のあった被告乙山が決し、同甲野、右丁山らはこれに協力して行っていた。診療の面では一応院長と呼ばれていた丁原が行い、他の医師や看護婦らの監督を行っていたが、その採否については関与していなかったし、また診療についても営業実績を上げるため、被告乙山や同甲野らから、検査に回す率やエックス線撮影をもっと増やすよう要望されることなどが多く、丁原もその要望に従っていた。被告会社の業務内容は診療所の経営が主要なものであり、他には昭和五八年一一月ころからタバコの自動販売機等を数カ所に設置して販売している外はさしたるものはない。被告会社、診療所の経理については、その経理の担当者としてそれぞれ別の担当者がいたわけではなく、被告会社、診療所の経営のために必要な資金の多くは被告乙山個人または被告乙山が経営する会社から出されており、収入としては、診療所の診療報酬が主なものであったが、これは被告会社が債権譲渡を受けたものとして受領し、被告会社と診療所の経費の支払等にあてられ、被告会社、診療所の経理は渾然一体として処理され、分けられてはいなかった。

以上の認定事実によれば、診療所は形式的には医師の丁原が開設者になっていたものの、実体は被告会社そのものであったというべきであり、また被告乙山は登記簿上被告会社の取締役にはなっていないものの、被告会社の実質的経営者(事実上の代表取締役)であったものというべきである。

二  請求原因2のうち、原告が診療所用の医薬品を昭和五八年四月から同五九年八月一五日までの間、毎月一五日締切、当月末一八〇日サイトの被告会社振出名義の約束手形払の約定で継続的に売り渡し、同年八月末日現在の売掛金残が六六七万五六九一円であることについては当事者間に争いがなく、一記載の認定事実によれば、診療所は被告会社そのものであり、また《証拠省略》によれば、当初原告と診療所への薬の納入について交渉したのは被告乙山、同甲野らであり、同人らから被告会社が診療所を開設するので薬の納入の交渉をしたいとの趣旨の話があり、原告の右交渉に従事していた担当者も、診療所と被告会社は同一のものと認識していたと認められ、原告提出の甲第二号証一ないし一一の入金伝票、同一二ないし一八の受領書、甲第三号証の売掛管理台帳には相手方がチェリークリニック、KKチェリークリニックと記載されていて、一見右認定に反するかの如くであるが、《証拠省略》によれば、これは、原告において医薬品の納入先が医療機関に限られていたことによるものであり、この理由は合理性を有するものであって、右記載は前記認定に反するものではなく、《証拠判断省略》、診療所用の医薬品の売買契約は原告と被告会社間に成立したものと言うべきである。

従って、原告の被告会社に対する売掛金請求は理由があることに帰する。

三  同3のうち、診療放射線技師法及び診療エックス線技師法違反事件で関係者が刑事処分を受けたこと、診療所が廃業するに至ったこと、被告甲野が被告会社の代表取締役であったことについては当事者間に争いがなく、右争いのない事実、一記載の認定事実及び《証拠省略》によれば(ただし後記信用しないものを除く)次の事実を認定でき(る。)《証拠判断省略》

被告乙山は診療所すなわち被告会社の重要事項については決定権を有する実質的経営者(事実上の代表取締役)として、被告甲野は重要事項については被告乙山の指示を仰いでいたが、同人からまかされたり指示のあった範囲内の事や、日常的な業務等については代表取締役として意思決定し、業務の執行を行う者として両者は相協力して診療所を経営していた。しかし、診療所は当初月約八〇〇万円の赤字であり、その後徐々に月々に発生する赤字は減って来たものの、累積する赤字は増加する一方であり、被告乙山が個人や、他に経営する会社から診療所の経営資金として注ぎ込なければならないものが思ったより多く、数年の赤字は初めから覚悟していたが、予想より黒字に転換するのが長びく様相であった。そこで被告乙山、同甲野らは営業成績を上げるため、医師の丁原に患者を種々の検査に回すことや、エックス線の撮影を多くするよう求めたりする一方、経費を出来るだけ切り詰め赤字を少なくすることとなった。そしてエックス線撮影の資格を有する技師の一人が昭和五八年三月退職したおり、一旦は正規の技師を捜しはしたが、被告乙山、同甲野らが希望する安い給与ではなり手がないことから、人件費を節約するため診療所の営繕係として勤務し、エックス線撮影の補助もしており、資格は有しないが見よう見まねでどうにかエックス線撮影が出来るようになっていた被告乙山の甥の丙川一郎にその代わりをさせることを被告乙山が発案し、被告甲野や丁原らにも協力を求め、同人らもその要望に答え、他の資格を有するエックス線の技師がいないときは丙川一郎に一人で撮影させるようになった。また同年五月ころ、エックス線撮影の資格を有する者が歯科の部門を除いて全て退職した後はもっぱら丙川一郎にさせることとし、被告乙山において丁原にエックス線の処方を出すよう求め、同人もこれに応じていた。そして被告甲野ももちろん被告乙山の指示に従っていた。そして昭和五八年一〇月ごろ神奈川県の衛生部に診療所において無資格者がエックス線撮影を行っているという通報がされ、県の係官から事情を聞かれたし、同年一一月ころ、神奈川県衛生部からエックス線撮影を誰がどのようにやっているかの説明書提出を求められたのに対し、事が露顕すると被告乙山や同甲野らが計画していた診療所を法人化することも難しくなるばかりでなく、診療所自体が信用を失って立ち行かなくなる可能性もあったためこれを否定し、被告乙山、同甲野らにおいて口裏を合わせて、いずれも資格を有する者が行っていることにした。丙川一郎による無資格のエックス線撮影は昭和五九年三月、診療放射線技師法違反等により警察の捜査が診療所等に対してなされるまで続いた。そして同年六月被告乙山、同甲野らが逮捕され、また、新聞等によりエックス線撮影の事実が報道されたことなどにより、診療所は信用を失い、患者も減り、薬品業者から医薬品の納入も中止されたため、開設者となっていた丁原は、同年七月七日診療所の廃止届を出した。右廃止当時における被告会社すなわち診療所の負債は少なくとも一億円を越えており、一部の例外を除いて右負債が弁済された形跡はなく、現在も支払われないまま残っている。被告会社の資産としては開設当初より什器備品や多少の医療器具があるくらいで診療所や事務所は賃借物件であり高価な医療機器はリース契約によって導入したものであってさしたる資産はなかった。被告会社はその後もタバコや自然食品の販売を行い一ケ月約三〇〇万円の売上げがあるが、右負債の返済にあて得る利益は少なく到底弁済される見込みはない。原告と被告会社の取引は昭和五七年五月ころ始まり、同年一二月ころ一旦中断され、翌五八年五月ころ再開され、以後昭和五九年六月ころまで続けられ、その間毎月以前の売掛金を含めて支払われ、徐々に売掛金の残も減って来ていたが、被告会社が診療所を廃止したことによって回収は不可能になった。診療所が廃止されず続けられていれば医薬品は診療所の運営に是非とも必要であり、医薬品を入れるために、事実上優先的に代金が支払われる可能性が高く、原告も被告会社と取引を継続することにより、売掛金を回収出来る可能性は十分にあった。

以上の認定事実によれば、被告甲野は被告会社の代表取締役であったのであり、代表取締役として診療所を経営するにあたっては、適正健全な運営を行うことを心掛け、診療所を継続、発展させ、不正な診療等を行い、診療所としての信用を失い、その業務が出来なくなり、ひいては被告会社を倒産に至らせることがないようにすべき義務があり、また被告乙山は被告会社の取締役にはなっていなかったものの、対外的にも対内的にも重要事項についての決定権を有する実質的経営者(事実上の代表取締役)であったのであるから、本件においては被告乙山は同甲野と同様の義務を負うものと言うべきである。

また、前記認定事実によれば、被告乙山、同甲野は右義務があるにもかかわらず、経費節減を計るため、被告乙山においては主導的に、同甲野においてはこれに協力し、無資格者にエックス線撮影を約一〇ケ月以上に渡り行わせ、警察の捜査を受け、新聞等に報道され、診療所としての信頼を失い、患者も減り、薬品の納入もされなくなったこと等から診療所も廃止せざるを得なくなったものであり、また被告会社は現在もタバコ等の販売を行い、一ケ月約三〇〇万円の売上げがあり一見倒産には至っていないかのごとくであるが、被告会社の主要な部門である診療所を廃止し多大の負債を有し、支払を停止し、その支払は不能であると言うのであるから、被告会社は事実上倒産したものと言うべきである。被告会社の右事実上の倒産は、被告乙山及び同甲野らにおいて故意に不正な診療を行わせ、それが発覚した場合診療所の経営が立ち行かなくなることがあり得ることを認識していたか、又はわずかな注意を払えば容易に予見し得たにもかかわらずこれを怠り、不正な診療を継続したことによるものであり、被告乙山、同甲野は重大な過失により前記義務に違反して被告会社を事実上倒産させたものというべきである。

ところで、前記認定事実によれば、被告会社の資産にはさしたるものはなく、赤字の累積した会社であり、原告の債権が回収不能になったのは、被告会社の資産がないことに起因するのであって被告乙山や同甲野の行為とは因果関係がないかのごとくである。しかしながら、原告は医薬品を診療所に納入していたものであり、医薬品は診療所の運営に必要なものであり、事実上優先的に代金が支払われることが期待され現に、不正診療が新聞等で報道されるまでは支払われ、売掛金の未回収額も徐々に減って来ていたし、診療所が継続されておれば回収の可能性があったものであり、これも被告会社が継続することによる利益と見るべきであり、被告乙山、同甲野らの行為によって右利益が失われ、原告は売掛金の回収が不能になり同等の損害を受けたと言うのであるから、右行為と原告の受けた損害との間には相当因果関係があると言うべきである。

以上によれば被告甲野は商法二六六条ノ三第一項により、被告乙山はその類推適用により原告が被った損害を賠償する責任があると言うべきである。

なお、原告が被告甲野に対し、年六分の割合による遅延損害金の支払を求める点は、商法二六六条の三は特別の法定責任を規定したものであり、遅延損害金については民法所定の年五分の割合によるべきものと言うべきであり、他に年六分の割合による遅延損害金の支払を求め得る根拠についての主張はないから、右範囲に限られると言うべきである。

四  以上によれば、その余の事実は判断するまでもなく原告の被告会社及び被告乙山に対する請求はいずれも理由があるから認容し、被告甲野に対する請求は、金六六七万五六九一円とこれに対する昭和六一年六月二九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野至 裁判官 姉川博之 梶智紀)

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